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土の中の子供

中村文則著(新潮文庫)


戦時中、学徒動員により軍事工場で働いた経験を持つ八十歳代のおばあさんと話しをした。


彼女は当時十六歳の女学生。海軍で電気溶接工として働いたそうだ。


戦争末期になるとベニア板製の特攻ボートを作っていたと言う。自分が製作にたずさわったボートで、同じ年代の男子学生が特攻の練習をすることを理解していた、と69年前を振り返った。


そして、おばあさんは、最後に僕にこう言った。

「戦争は絶対だめ。いちばん弱い立場の人がひどい目にあうから…」

僕は、このおばあさんと会った頃、ちょうどこの本を読んでいた。

なぜ人間は自分より弱い者に暴力を振るうのか。なぜ自分より弱い者をしいたげ、なぶるのか。
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幸い今は戦時ではないものの、理不尽で陰湿な暴力といじめは、社会のすき間で日常的に繰り返される。


差別という言葉は道徳的に押さえられているが、映画『それでも夜は明ける』のような蛮行は、毎日どこかで起きている。


親に捨てられ、親戚宅で虐待を受け続けた主人公は、大人に成長しても自己と社会との繋がりを断ち切るような生活を送っている。


時々幼いときの恐怖がフラッシュバックする。それは痛みを少しでも和らげようと覚えた唯一の護身術。歯を食いしばり、全身に力を入れて耐えること。そうすればいつか暴行は終わる。


無抵抗で大人の不条理な暴力を受け入れる子ども。狂気が巣くう小さな心に宿った現実は、加害者の「つまらなそうな顔」だ。


幼い子どもをつまらなそうに殴り、つまらなそうに蹴り、時には掃除機のパイプやアイロンを使ってつまらなそうに、めんどくさそうに殴りつける。


何度暴力を受けても、その意味はまったく理解できない。きっと、これが世界なのだと、主人公は暴力の向こう側に潜む世界の真相を懐疑する。


食事も摂取できないほど衰弱しきった少年は、やがて土の中に埋められ、この世から抹殺されることになる。


身動きできず、押しつける土の重みと闇の中に薄れていく空気と意識。少年はやっとゆっくり眠ることができると安堵する、が。


納得できない何かが、主人公の性を覚醒させ、現実に引き戻す。


弱者が負う傷の深さと再生の苦難を、読者の心に同調させる文章に驚愕。


作者の原点である『蜘蛛の声』も収録されている。


土の中で生まれた子供は、作家となって『銃』や『掏摸』を発表し、人間とは何者か、その謎を問い続けているように思った。


人は「つまらなそう」な暴力にどのように抗していけばいいのだろうか。


おばあさんの「弱い者が一番ひどい目に合う」という言葉が、僕の身体の中でまださまよっている。



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theme : 読書感想文
genre : 小説・文学

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kemurino

Author:kemurino
■けむりのまきたろう(♂)/年式:61式/居住地:軍艦が浮かぶ港町。自主映像チーム「煙野映画」代表。オリジナルショートムービー「暴中ハンター☆優」などをYouTubeで発表中。映画、本、音楽、麦酒が好物。instagramkemurino.films

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