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乳と卵

  川上未映子/著(文藝春秋)

一段落を読点だけでたたみかけていくような文体と関西弁に、最初はつまずいていたのだが、ページをめくっていくうちに独特のリズムにも慣れ、パンクの8ビートのように言葉が加速した。


豊胸手術に目覚めた姉(巻子)と、そんな母親に嫌気がさし、女性という生命に不自由さを感じてしまった姪っ子(緑子)が、語り手である妹のアパートに転がりこんだあたりから、にわかに面白くなった。


姉妹揃って銭湯で女体を観察し、他人の乳の色合い形をロケパイ、カニパイなど四の五の言うさまはなんとも滑稽。

出産後の乳の変貌も月経の感覚も分からない私には、女性がエイリアンのような未知の生命体に思え、美の裏側にある性のダイナミズムを感じた。


主人公が姪っ子と花火を大量に買った夜。対話を断ったままだった姉母子がついに互いの胸の内を言葉にしようとする突然のクライマックスがやってきた。


流しにのこったドレッシングの白い筋を見つめていた娘に、怒りの言葉をぶつける母。さらに罵声をあびせ、娘のひじをつかむ。激しく母を振り払う娘…。


その手が母の顔にあたり、さらに指が母の目に入る。「いたっ」と声を出す母の充血した目から涙が汁のように垂れはじめた。


この後の描写が圧巻。まるでスラップスティックのようなシーンが続く。互いが思いを込めた感極まった言葉のなんと無力感が実にいい。


しまいには娘がそばにあった賞味期限間際の玉子パックから、玉子をつかみ、自分の頭に叩きつけながら大声をだして泣き出す。


不覚ながら私はこの約7ページの描写を笑いをこらえながら、ものすごいスピードで読んだ。



生玉子を何個も自分に叩きつけながら、なぜ豊胸手術をするのか、と問いつめる娘のけなげな姿。

黄身と白身、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったその顔は、色味こそ違え映画『キャリー』のよう。


なんだ!なんだ!この展開はと思う間もなく、今度は母親まで玉子をつかみ自分の頭に叩きつける始末。生玉子まみれになった娘は呻きながら泣き伏してしまう。その頭を赤いハンカチで優しくぬぐってやる母。

toshiyo.jpg

この女性たちの使い方間違ったかのようなエネルギー放出量はどこからくるのか?と呆然としながら読み続けるとほどなくして最終段落が訪れた。


それは『乳と卵』という表題が静かに鏡に浮かぶようなエンディングだった。

本来笑うところではないかもしれないが、笑えるくらいビートの効いた世界観が痛快な作風だ。


ちなみに同時収録の短編『あなたたちの恋愛は瀕死』のラストも映画のワンシーンみたいでかっこよく、にんまり。

 
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kemurino

Author:kemurino
■けむりのまきたろう(♂)/年式:61式/居住地:軍艦が浮かぶ港町。自主映像チーム「煙野映画」代表。オリジナルショートムービー「暴中ハンター☆優」などをYouTubeで発表中。映画、本、音楽、麦酒が好物。instagramkemurino.films

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